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存在解体のあとで

長い間、星座というものは人間の想像力が生み出した架空の物語、それを意図しようがしまいが関係のないものを結びつけようとする人間の「ぼやけた知覚」の副産物のようなものだと考えていた。しかしある時からその認識が揺らぎ再考するようになった。寒く静かな砂漠の夜、天球に広がる無数の星々を眺めていると星と星の間に無限の線が絶えず現れ、まるでそれらが主体的に記号を送り出しているかのように感じられたのだ。遠くにある2つの星が第3者の不完全な物語によって紐付けられるよりもずっと前から複雑に絡み合っているという可能性について。この世界は知覚の産物以上の何かであり、観察者は星と星の間に既に存在する「絡まり」を垣間見ているだけなのではないか。

量子の性質である「量子もつれ(Quantum Entanglement)」は、2つ以上の粒子が距離を超えて互いに影響を与え合うという現象であり、一方の粒子の状態が決まると他方の粒子も瞬時に影響を受ける。この現象は、距離という概念を越えた「非局所性」を示しており、物理的に隔たっていても粒子同士が奇妙な繋がりを維持していることを証明している。星と星の「絡み合い」をこの量子現象と重ね合わせて考えると、宇宙の中で物理的に離れた存在同士がすでに深く結びついている可能性を示唆している。物語を超えた関係性が既に存在しているという考えは、パースペクティビズムが陥ってしまう非効力感に対するある種の希望のようにも思える。

人間は意識によって制限された知覚世界を生きている。その意識は他者から共有された、もしくは自ら紡ぎなおした複数の物語に依存している。わたしたちはその織物の表面に引っ付いたままハタハタと弱々しく震えている。しかし時折、この繊維の密集した表面に「脱落」を見つける。そしてその穴にあるものを想像してみる。それは動機づけされていない沈黙であり、その沈黙は他の何をも意味することがない。

Akari Fujise