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Songs to Make the Dust Dance on the Beams

タイトルの「Songs to Make the Dust Dance on the Beams」は、平安末期の歌集「梁塵秘抄」の英題です。後白河上皇によって作られたこの歌集は、今様(いまよう)という様々な階層の人たちが歌った<世俗の口ずさみ>が記録に残らないのを惜しんで作られました。「梁塵秘抄」はあまりの美しい歌に家屋の梁に乗る塵さえも舞った、という意味で命名されています。

今回展示される二作品は、それぞれ異なる対象・アプローチでありながらも、梁塵秘抄のように日常的に存在しているにも関わらず記録されない儚い痕跡を発見しドローイングすることで、その背景にある時間や身体、エネルギーや物理法則について探索しています。

展示タイトルと同名の「Songs to Make the Dust Dance on the Beams」は、アートスタジオのデスクの痕跡を刺繍によってトレースして制作されています。アーティストであるかどうかに関わらず私たちは日常的に頭の中で様々な言語や記号の操作を行っています。特に新しいアイディアを創造する時は、既存の概念を解体し、時に光速で非線形的な記号の操作が行われます。スタジオのデスクは、そのような目に見えない創造活動の軌跡が刻印されうる稀有な場です。刺繍という手法で時間をかけてトレースすることで、創造性の痕跡の可視化を試みると同時に、汚れの価値に揺らぎを起こします。身体を用いながらも先入観をなるべく持たずに他律的に刺繍を行う手法は、科学的にも未知の多い領域である人間の創造性に対して、認識の手を伸ばしていこうとする態度でもあります。

「Full of Days」は、道路表示の摩耗に着目し、都市におけるエントロピーの増大の可視化を試みた作品です。星屑にも見える写真は、公園の砂利場を上から撮影したものです。満月の日、無数の人が行き交う公園の砂利場に白に近い色の砂利で円を描き、月が地球の周りを一回転するのと同じ日数放置しました。天候や無数の人々の歩行によって、今にも消えてしまいそうなその壊れつつある系は、自然の持つ普遍的な物理法則の深淵さや無常感を感じさせます。一方でエントロピー増大を通して時間の経過を捉える人間の認知は、ミクロレベルでの正確な情報を考慮することができない「ぼやけた視界」=身体が生み出しているとも言えます。

Solo Exhibition “Songs to Make the Dust Dance on the Beams”
Untitled Space, 2022/02/25-27

Akari Fujise